モノクロ
 

私は先輩と二人で飲みに行ったり出掛けたりするのはやめようと決心していた。

先輩には結婚を約束した人がいるんだから変な噂がたっても困るし、私も先輩への気持ちを忘れると決めたから。

そうするためにも先輩との距離を置くのが一番いいと判断したのだ。

仕事では先輩のことを避けるつもりはない。

でも、こればかりは仕方のないこと。

それに今はこうやって誘ってきてくれるけど、そのうち飽きて誘わなくなるはず。

そうして先輩との距離を少しずつ置いていけばいい。

そうしていればきっと、私の中の先輩がただの先輩になる日が来る。

それが今の私にできる精一杯。


「つまんね。帰ろう」

「お疲れさまです~」

「お疲れ」

「はぁ、あっさりかよ。冷てぇなぁ~」

「ひぁっ!?」

「じゃーな!」


立ち上がった先輩は私の頭をぐしゃぐしゃっと荒く掻き回し、拗ねた表情でイスを元あった位置に戻してオフィスを出ていった。

先輩の気配を背中で感じながら、私は乱れた髪の毛をなおす。

パタンとオフィスの扉が閉まった瞬間、小さくため息が出た。


「相変わらずあいつのこと避けてるのか」

「えっ? 避けてるなんてそんなっ。あははっ」

「紀村も気付いてると思うけど」

「っ」

「何があったか知らないけど、一人で溜め込むなよ。辛そうな顔してる」

「……私なら大丈夫です。本来、こうするのが普通ですから」

「……そう」


にっと笑って答えると、佐山さんはそれ以上は何も言ってくることはなかった。

さっきの佐山さんの「俺も飯には付き合わない」という言葉を思い出す。

もしかして、私の拒否の言葉がトゲに聞こえないように和らげるためのものだったのかな……。

佐山さんの優しさに涙が出そうになったけど、何とか抑えて仕事の続きをし始めた。

 
< 269 / 299 >

この作品をシェア

pagetop