モノクロ
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「さーきーこー! 早くしろって! 置いてくぞ」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! あれっ? 先輩、ここに置いてた資料知りません!? 今日のテレビ会議で使うやつ!」
「は? 玄関にあるけど。つーか、昨日の夜、忘れないようにって自分で置いてたじゃん」
「あれ、そうだったっけ?」
「ほんと、さきこって寝たらすっかりさっぱり忘れるよなー」
「あっ、その言い方酷い! バカな子みたいに言わないでくださいよっ! さっ、お待たせしました!」
「よし、行くぞ」
「はーい!」
どたばたとした朝は毎日のこと。
……どたばたしてるのは私だけで、先輩はいつも余裕の様子で用意してるけど。
私が部屋を出ると先輩が部屋の鍵を閉めてくれ、二人並んでエレベーターホールへ向かう。
黒縁メガネにスーツをびしっと決めている先輩はいつ見てもカッコいいと思う。
二人で一緒に生活をするようになって、早数ヶ月。
この姿を毎日見るようになってから結構経つというのについ見とれていると、先輩が私の方を振り向き、問いかけてきた。
「さきこさ、覚えてねぇだろ」
「何をです?」
「昨日の夜、ケンカしたこと」
「……あぁっ」
「くくっ、やっぱり忘れてたのか。ウケるし」
「くぅっ。私のバカー! あんなにムカついてたのに!」
「まぁ、いーじゃん。仲直りしよーぜ。今日はケンカしたくない」
「……確かに。って、結局それなら私の負けじゃないですか~」
「いいよ。旅行の第1案はさきこに任せる」
「ほんとっ? やったぁ! ありがとう! 先輩!」
先輩の腕にしがみついて見上げると、ふっと緩んだ大好きな先輩の笑顔が降ってきた。
折れてもらったことも嬉しいけど、今日という日を思うとゆるゆるに頬が緩んでしまう。