モノクロ
 

思わず告白してしまったけれど、感情が昂っているからか後悔や焦りの気持ちはなかった。

先輩の口がゆっくりと開くのが見えて、この場の時間が動き出した気がした。


「……さきこ」

「はい……」

「それは、本気で言ってる?」


先輩は驚いた表情から真面目な表情に変え、私の心の中を読むような瞳に、どきりと私の心臓が音をたてた。

先輩が不意に見せるこういう真面目な表情は反則だと思う。

心臓が持たない……。

でも、もう誤魔化すことなんてできない。言ってしまったからにはちゃんと伝えなきゃ。

私も先輩の瞳を真っ直ぐ見つめる。


「はい、本気です。冗談で告白なんてしません。先輩と出逢ってからそんなに時間は経ってないですけど、そんなの関係ないんです。……先輩のこと、もっと知りたいんです」

「……そう」


先輩の目線が私から離れ、ふぅと小さく息をついたのがわかった。

それは明らかに、迷惑そうなもの。

先輩の答えはNOだ、とその態度で悟る。

“ごめん”、という言葉を予想した時、先輩の口から出てきた言葉は意外なものだった。


「……俺のどこを好きだと思った?」

「えっ? ……えっと……笑顔は素敵だと思うし、優しいところとか、仕事の向き合い方も尊敬できるし……。一緒にいて楽しいし、もっと先輩のこと知りたいって思ったから」

「それってさ、先輩後輩だったり友達の関係でも別にいいよな?」

「それは……っ」

「俺はいいと思う。それに、俺を好きだなんて気持ちは錯覚だよ」

「錯覚なんかじゃありません! 私は本当に先輩のことが好きなんです」

「恋に恋してる、って知ってる? さきこの持ってる気持ちはそれだよ」

「な……! 違います!」

「そうだよ。仕事がうまくいってない時に背中を少し押しただけの男のことを、好きかもしれないと思い込んだだけ。それがたまたま俺だったってだけなんじゃないのか? さきこは俺のこと、ほとんど何も知らないだろ。表面的なところだけを並べ立てられて告白されたって信じられないよ」

「!」


確かに先輩の言う通りなのかもしれない。

それでも、先輩へのこの想いは確かに本物なのに……!

 
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