こっち向いて、早瀬先生。


「行くか」と、言った先生は
真剣な表情になっていた。

いきなりの真剣な表情に
どきっとする。



「あ、あの……シャーペンは」



おそるおそる声をかけると


「あ~…すっかりわすれてたわ」


へらっと笑って
ポケットからシャーペンを取りだして
返してくれた。



ほっとしような、寂しいような
複雑な感情が胸の中で入り混じる。



「やっと返ってきた」


ため息混じりにつぶやくと



「もうおしまいかー…つまんねぇの」



横で先生が小さく呟いて
驚いて顔を上げた。



すると、メガネのときには滅多に笑わない先生が笑っていた。



そして


「じゃあ、怒られに行きますか」


と、わたしの頭をぽんぽんとした。



「っ!」

「ごめんな、今朝はもうちょっと、俺に付き合って?」



先生の問い掛けに、わたしは赤く染まった頬を隠すために俯きながらこくっと頷いた。



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