君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を








あの頃の自分は馬鹿だったと思う。
今振り返れば、恥ずかしい事を沢山してきた。


16歳の頃の事は、いまだによく思い出す。

教室の窓際の一番後ろの自分の席から、よく彼女の姿を見ていた。 授業中も黒板を見るフリをしながら彼女の背中を見ていたし、休み時間にも、教室の後ろの方で友人と喋りながらも時折盗み見ていた。

僕は、彼女が好きだった。




だから、彼女があの滝本と付き合い始めたと聞いて、僕は凄くショックだった。

滝本は顔も頭も僕より優れていたし、女子からの人気もあった。 そんな滝本と、控え目な美人故に、(僕を含む)男子から密かに好意を抱かれていた彼女が付き合ったとなると、僕は歯噛みしながらも納得するしかなかった。


願わくば僕だって、あんなふうに隣に立って話し掛けたかった。

でも僕なんて、冴えない男子だし。 そんな事は到底無理だと諦めた。 諦めたが、やはり悔しいものは悔しかった。




しかし、僕のその悔しさも一週間で消えた。 彼女が滝本をフった。


僕がそれを知ったのは、友人からのメールだ。 それには彼女が滝本をフった旨と、滝本が言っていたという彼女の噂が書かれていた。 いわゆる“黒い噂”というものである。


彼女が中年男相手に売春をしていたとか、いかがわしい薬を持ち歩いていて、滝本にもそれを飲むように強要してきたとか。
どうやらその内容のメールは、彼女を省くクラス全員に送信されたらしかった。

本当かどうかは解らない。 滝本がでっち上げただけかも知れない。 というか間違いなくでっち上げだろう。

しかし翌日から、クラスの人間は皆、彼女を除け者にしだした。 壮絶とも言える嫌がらせを始めた。 僕ならすぐに逃げ出した。

意図的に彼女の足を引っ掛けて転ばせるのは序の口で、彼女の服を盗んだり。
男子らが集団で、全校集会等の人が多い場所で彼女の体を嫌らしい手付きでまさぐったりと、まさにやりたい放題だった。


誰も滝本が流した噂を疑うような事は言わなかった。 嘘でも本当でも良かったのだろう。



あの頃のクラス全体には、“何か楽しい事ないかなー”という、全員に共通してそういう考えがあった。

つまり彼女がクラス内でいじめにあったのは、ただの暇つぶしだった。 遊びだった。


遊びで人をいじめたのだ。

情けないことに僕は、彼女をいじめから守ることが出来なかった。 そんな勇気無かった。
それどころか、僕も彼女に嫌がらせをした。





――――一度だけだが、彼女の背中を強く押した事がある。 本当はやりたくなかったが、他の男子に強要されてやった。 逆らえば僕もいじめに遭う。 彼女も心配だったが自分も可愛かった。

何の変哲もない廊下で、彼女の背中を押した。 彼女の小さな体は、容易く床に倒れてしまった。 その拍子に制服のスカートが捲れ、下着が見えたのを覚えている。

僕の周りにいた男子らがそれをはやし立て、僕もぎこちなくそれに従った。 楽しくなかった。

スカートを直しながら、彼女が僕を見上げた。 高校に入学して同じクラスになって初めて、彼女と僕は目を合わせた。


彼女の目は大きくて綺麗だった。 思わず右手を差し出して引っ張り起こしてやりたい衝動に駆られたが、それをするよりも早く彼女は視線を逸らした。


僕は悔しい。
なんであの時、「やめよう」と言えなかったのだろう。 土下座でもなんでもして、彼女にお詫びがしたかったのに、なんで勇気が湧かなかったのだろう。



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