君に愛の歌を、僕に自虐の歌詞を








函南くんの呼吸がかなり荒くなっていた。 同時に彼の身体の変化を感じたが、それを嫌だとは思わなかった。 寧ろ可愛いと思った。


「函南くんの変態」


耳元に口を付けて囁くと、彼の呼吸が一瞬止まった。

普段は、私でも思い切り叩けば泣かせられるんじゃないか、とまで思うくらいに頼りなくて、弱そうな印象しか無いのに、こうやって抱き締められると、――やはり彼も男なんだと実感させられる。 ゴツゴツした手や肩なんかは私のとは全然違うし、手で触れた皮膚の下に、しっかりと筋肉が付いてるのを感じるのだ。


あと、下腹に感じるちょっとした存在感を持つソレも。 何だか凄く愛おしく感じた。 洋服が邪魔だとさえ。


「…………私も変態だから許すわ」


函南くんが小さく笑った。 腰にあった彼の右手が、少しずつ下に下がっていく。 特に嫌がる理由がなかったので、私は黙って触られるがままになっていた。

やがてくすぐったいような、切ないような、何とも言い知れぬ感覚が自分を襲い、思わず声が漏れた。 普段でも出した事が無いような、艶めかしい部類の声だった。


「あのさ、………草野さん」

「……何?」

「あの、僕の親父が出掛ける前に、―――――こんなものをくれました」


函南くんの肩に付けていた額を放し、目を合わせて聞くと、彼は自分の尻のポケットから、―――――――いわゆる一つのコンドームを取り出した。
しかも三つ分、小さな正方形のパッケージが繋がっていた。

彼曰わく、父親からの贈り物だと。


「…………」


目を大きく開いて、それを無言で見つめた。 中身の丸いシルエットをジーッと見ていると、何だか無性に面白くなってきた。


「すごいお父さんだね………、超面白い」

「あのカフェのオーナーが親父の話した時、このこと思い出して素直に喜べなかった」

「っていうかそれ、持ってきた君も面白い」

「そりゃありがとう」


笑いながら、彼の唇に自分のを重ねた。


「それ使おうか」


唇を重ねたまま言うと、函南くんは「まじすか」と笑いの色を含めた声で応じた。 しかし笑いとは別の、ある種の期待が込められてもいた。


「っていうか、」

「“使った事ないしなー”って言うの?」


薄目を開けて至近距離で目を見つめると、彼は恥ずかしそうに目をギュッとつむった。

唇を放して、ニヤニヤしながら彼の顔を覗き込んだ。


「当たり? 当たり?」

「当たりですよ……。 っていうかお前も使った事無いだろ」

「“お前”?」

「…………ごめん、思わず」

「いいよーお前でも。 ――――私は、一応“家庭の医学”とか読んで勉強したけど」


読むか訊いたが、赤くなって首を振った。 余計恥ずかしいと言われた。


「それに、お、お、親父がやり方を教えてくれた事が……」

「…………マジで?」

「……小学生の頃に」

「教える時期が早すぎて引くわ」



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