【B】(第一夜完結)Love around ※第二夜準備中


「おはよう、お母さん」

「おはよう李玖。あら?朝ご飯は?」

「ごめん。食べてる時間ない。
 今日、車が安川のお好み焼き近くのコインパークなんだ。
 昨日、お酒飲んじゃったから」


口早に言うとお母さんは棚の中から車の鍵を取り出す。

「李玖、合鍵。

 お母さんの車、乗っていっていいから。
 パーキングで車入れ替えなさい。

 お母さん、もう少し時間あるから。
 今日、会議の関係で帰り遅くなるから」

「はぁーい。
 んじゃ、借りてくね」


運転しなれない母のパッソに乗り込んでエンジンをかける。


自宅の駐車場からゆっくりと車を走らせて向かうのは、
昨日のお好み焼き屋近くのパーキング。


母の車を自分の車の隣に駐車させると自分の駐車枠の料金を精算して車へ。

そのまま鷹宮への道程を走らせ始めた。
今日は遅刻ギリギリなんてことならなくて済みそう。


車内にはいつもと同じように軽快に響く、

J-POPのヒットソング。
順調に流れていたはずの出勤も昨日に続いて今日も雲行きが怪しくなり始める。

さっきから、殆ど前に進まなくて時間だけが過ぎてく。

アクセルを踏むまでもなく、ブレーキを放してはクリープ現象で自動前進。

時計と睨めっこしながら、車内でイライラし始めた頃、
後ろから救急車のサイレンの音。


急患?
それとも事故?


サイレンの音は近づいてきてるから、
どうにかして動いて救急車の通り道は作らないといけない。


一斉に、身動きが取れない中救急車の通り道を作ろうと、
端に寄せたり、少し歩道に乗り上げるように寄せていく車。


私もその車たちにならって愛車を動かしたとき、
ノロノロと救急車がすり抜けて、その後ろ、真っ白な外車が付いていく。


何よっ、あの車。
救急車の後ろに居たからってずうずうしくない?


救急車とその車が通過した後は何とか車を動き出して、
ゆっくりと流れ出した車は、やがて事故現場の傍を通過する。


前のボンネットがベッこりと凹んだ車と後ろがグシャっと潰れた車。

後ろから衝突しちゃったんだなーっと思いながら通過して、
ふと隣を見た時、そこにはあの救急車の後ろを走ってた真っ白の外車。


その隣に居たのは昨日、スタッフ紹介の時に遅れてきたあの先生。


早城先生?


運転しているガラス越しに視線を移しながら、そのまま通過する。


事故現場を通過すると車はスムーズに動き出して、
確実に病院にも間に合いだしたと安堵したのに、
無謀運転の車ってのは、やっぱり何処にでも居るわけで赤信号の交差点。


無謀にも突っ込んできた車とぶつかりそうになって
クラクションと急ブレーキ。


間一髪、事故は回避されたものの気分は最低。


テンションも最悪。


事故が起こる寸前のストレスは半端なくて、今も心臓がバクバクいってる。


無謀に突っ込んできた車は謝罪の言葉一つもないままに走り去って、
私もその場から車をゆっくりと動かし始めた。


車を病院内の駐車場に侵入させて、
駐車枠に止めるためにギアチェンジを試みるものの動かない。


えっ?
どうして?



思うようにならない車。
駐車場についた時間は8時5分頃。



だけど……こんな時間に、車屋さんなんてあいてない。


最悪だよ。
今日こそは遅刻?

遅刻の文字だけが脳裏をリフレインしていく。

いやっ、まだ出勤2日目。
それは流石にマズイよ。


意識だけは慌てるのに行動が伴っていかないジレンマ。

時間だけが過ぎていく。
ふとその時、窓をコンコンと叩く音が聞こえた。

慌ててその方へと振り向くと、そこに居たのは……早城先生。



げっ。
内心思った心を必死に沈めて意識を切り替えようと自己暗示。


この際、誰でもいいから助けて。
私を遅刻させないで。

覚悟を決めて窓ガラスを下げる。

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