Jet Black
「…これでも一応、会社を持っていてね」

 コーヒーを置くとほぼ同時、柏原と名乗った老人は勧められて座ったイスに腰掛けてぽつりぽつりと話し始めた。

「最近、どうもこの社内でヘンなことが起きる。書類がなくなるとか、部屋が朝には粉々になっているとか。まだかわいい方だった」

 だが、と柏原社長は静かに続ける。

「最近は人までいなくなりおる。我が社での行方不明者は、今朝の時点で6人となった」

 6人、と口の中で呟いた蒼居は、顔を上げて社長をじっと見つめた。

「…警察は?」

「現在捜査してもらっておるが、全く何も掴めておらん」

 ぽすりと深くイスに座り込んだ社長に、蒼居はわずかに笑みを浮かべた。

「で、私に何をしろと?」

「…それだ」

 間をあけて、せっかく深々と座ったイスから身を起こし、顔の前で手を組んだ柏原社長はゆっくりと目を開けた。

「なんでも屋の蒼居のことは、古い知人から聞いたことがあった。君が本当に…その、なんだ」

 口ごもった老人を気にせずに、蒼居はコーヒーに口をつけた。

「…この世で最後の『魔法使い』というのなら」

 思わず声をあげそうになった凌は、慌てて呼吸を飲み込む。

「…もし、なんだ。それが夢物語でないのなら、行方不明になった者を探すのに協力を求めたい」
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