片恋綴
本物



気持ち悪い。

自分だってそう思うんだから、他人から見たらもっと気持ち悪いだろうし、本人からしたら拒絶したいくらい気持ち悪いんだと思う。

だから絶対に、この気持ちは自分から人に告げることはないんだと思っていた。

「原崎さん」

珍しく眉間に皺を寄せてみていたらひょっこりと理生ちゃんが顔を覗いてきた。

最初はなんかおどおどしていて、可愛いと言ってみれば顔を真っ赤にするのが面白くてついからかっていたのだが、最近ではからかい甲斐もない程に逞しくなってしまった女の子。

「珈琲のお代わり、いります?」

理生ちゃんが訊いてくるので、俺はお願い、と言ってカップを渡した。

この店に通うことに特に意味はない。特別気に入っているというわけでもないし、特別落ち着くというわけでもない。

ただ、あの人が知らない場所に来たくなるだけ。

……それは立派な理由だけど。


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