片恋綴
片想い
「佐南さん」

柔らかな呼び掛けに振り向けば、そこには小さな花がひっそりと咲いたかのような笑顔がある。

「どうした?」

問えば、その笑顔を更に綻ばせ、聞いて下さい、と少し頬を染める。美春は嬉しいに頬を染めたまま近付いてきた。

「昨日、メールが来たんです」

そう嬉しそうに言われて、年甲斐もなく胸が痛むのを感じた。きり、という胸の軋みは、まるで十代の頃に味わったものによく似ている。

──もう、三十手前だというのに。

俺は腹の中で苦笑をして、それはよかったな、と返す。すると美春は笑顔のまま、はい、と頷いた。

彼女はもう二年くらい同じ相手に片思いをしているらしく、時々俺にその相談や報告をしてくるのだが、聞いている限りそこに望みは薄い。それでも好きな気持ちは簡単に消えるものではないらしく、相手の言動に一喜一憂しているようだ。

そして、そんな俺は目の前のこの小柄な子を好きだと思う。

──だから自覚したくなどなかった。

アシスタントの真宏が余計なことをしてくれたせいで、否応なく自分の気持ちを認めざるを得なくなった。認めたくなくて、ずっと逃げていたというのに。

「メールには何て書いてあったんだ?」

訊くと美春はまだ嬉しそうにしながら口を開いた。

「今度、ご飯食べに行こうって」

その言葉に嫌な予感がする。これは、所謂進展というやつなのかもしれない。相手のことなど全く知らないので、どういう経緯でそうなったのかも、どういうつもりでそんなことを言ったのかもわからないが、いい方に捉えれば進展。

だがそれは美春にとっての話で、俺にしてみれば悪い方だ。


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