あなたのギャップにやられています

思い出の炊飯器


新しい部屋は、雅斗と暮らしたあの部屋から、タクシーで三十分ほど離れたところに借りた。
全く別の土地で新しい生活を始めるべきかもしれないと思ったけれど、もうそれ以上離れることは私には無理だった。

これが"未練"っていうやつなんだとはわかっている。
だけど、彼との思い出をすべて断ち切る勇気は、私にはなかった。

ほんのわずかでいい。
彼と過ごした日々を思い出せる場所に留まっていたい。


だって……雅斗のことが、本当に好きだったから。
いや、今でも大好きだから。


玄関に入った途端、私は泣き崩れた。

スマホも変えなくちゃ。
そうでないと、彼の声が聞きたくなってしまうから。


少し気持ちが落ち着くと、寝室にした南側の部屋に、雅斗にもらった絵を掛ける。

すごく恥ずかしかったけれど、描いてもらえて本当によかった。
すべてをさらけ出した私を、彼は受け入れてくれたのだと感じたから。

ヌードを描いてもらっている間は、とても幸せな時間だった。
彼に愛されていると、心から感じた。

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