蕾は未だに咲かないⅠ

転落




「大丈夫?大分良くはなったみたいだけど。」


雨が降りそうな、いつも通りの曇り空を窓から見上げていると後ろから声をかけられた。


優しさの籠もったその声だけど、表情は冷たい。

しかも驚いたのは、必ず音がする引き戸をいとも簡単にすんなりと静かに開けた事だ。


あたしは身体ごと振り返り、正座をしたまま「はい」と答える。今ではくすんで見える明るい茶髪に、垂れ目の彼はニッコリと完璧に笑んだ。


「輔さん、お久しぶりですね。」


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