雨情物語⑤<雀の涙>
雀の涙
町から海へと続く道は、切り通しと呼ばれる、左右を切り立った岩の壁に囲まれた狭い路地になっています。


まだこの町に都があった頃、要塞の役目をした切り通しは、源平時代から変わらない静かな空気が漂っています。


湿った岩と、艶やかに雨を纏うシダの葉。


ええ、はい、この景色にわたしが似合っていないことなど重々承知いたしておりますとも。


せめてこんな浮わついた赤いレインコートではなく着物に羽織で歩くべきでした。


切り通しとは、そんなところなのです。

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