惚れられても応えられねーんだよ

強い男に助けられたい


 会議室は物々しい厳戒態勢でピリピリしている。遅れてやってきた中島を中心に、新堂と連携しながら指示を出していく。

 その後ろでポツンと立ち尽くす、私。

 侵入者なんて、そうそうあることなのだろうか?

 守衛がやられたそうだが、どんな風にやられたのか? 目的は一体何だろう?

 次々に疑問が浮かんだが、みんな私のことなど構っている余裕はない。

 コトン、コロコロコロコロ……。
 
バタバタした中、音に気付いて、足元を見た。黒い真ん丸の塊が、ゆっくり転がっている。

誰か落とした? と思い、後ろを見たが誰もいない。

 鉄の塊が重そうで、これが何なのか全く判別がつかない。

「伏せッ!!!!」

 顔を覆う、スーツ。

 丁度青色のネクタイが頬に触れ、その生地がシルクであることを知る。

 誰かが覆いかぶさって、というよりは抱き着いてきた、という方が近い。後頭部には手が回され、思い切り後ろに倒れにも関わらず、痛みはほとんどない。

 爆発音の後、次に気付いたのは火薬の匂い。それと同時に煙がその辺り中に広がり、咳き込む声やうめき声があちこちで上がる。

 身体は完全に床の上。その上にいるのは咳き込む声で分かる、新堂だ。

 体重がかかっていないので重くはない。

 更に煙幕の中で、誰かの叫び声がし、ガシャンと金属が落ちたような音がする。

「えっ」

 落ちたナイフの持ち手が手に触れた。すぐそこで、何かが起きている。

 だが、煙で何も見えない。分かるのは、ナイフに手が届いているということだけ。

 新堂が完全に身体をよけ、咳き込みながら立ち上がろうとし、失敗して足が崩れた。ケガをしているのかもしれない。

 私は、思い切って手を伸ばし、ナイフを掴んだ。

 サバイバルナイフは想像以上に重くて大きい。

 今日の朝、普通の竹刀で素振りをした記憶が一気に蘇る。

 私は、力づくで立ち上がった。

 もし犯人が相手が襲いかかってきたら、ナイフで威嚇しなければならない。

 そう考えただけで緊張と興奮が入り交り、手が震え、持っているのがやっとの状態になる。

 息が乱れ、薄くなった煙を少し吸っただけで咳き込んでしまう。

「…………!!」

 その一瞬、煙が途切れて視野が広がった。

 防護マスクの男が確実にこちらの位置を捉え、近寄ってくる。

 私は咄嗟に手を離した。ナイフはそのまま落ち、相手の防護マスクを眺めることしかできない。

「雪乃!!!!」

 左上から飛んできた岬に気付いたのと、岬がマスクの男を締め上げたのは同時だった。

「見てて下さい。人を護るってーのは……」

 岬はバランスを崩すマスク男に躊躇もせず、腕を掴んで馬乗りになり、慣れた手つきで素早く拳銃をコメカミに当てる。

「こうするんですよ」

 その真後ろから「ぐあ」といううめき声が聞こえる。咄嗟に振り返った私の顔に血しぶきが飛び、頬を赤く染めた。
 
 マスクのせいで男の顔は分からなかったが、その声は尋常ではない。

 銃の暴発によって手から吹き出す血、震える男の身体、尋常ではない雄叫び。

 今度は違う方向からうめき声が聞こえる。

 それと同時に私の左手の甲が生温かくなった。

 見なくても分かる。

 血。

 温かい。

 血が、温かい。

 眩暈がして、うまく立てなくなる。

「どうしたッ!?」

 岬であろう手が背中に触れたが、そのまま地面に落ちてしまった。頭が、重い。

「雪乃!!! 」

「おい総悟!!! んなのほっとけ!! 」

 新堂の荒々しい声が聞こえる。

 こんな殺戮の場で血を見て倒れるなんて、邪魔以外の何者でもない。

 薄れゆく意識の中で、私は血の匂いを思い出していた。

 吹き出す血は温かい。

 先日触れた血も、そういえば温かかった気がする。

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