夜香花
「変なこと言うな。お前はただの野良犬だろうが」

「野良犬って何さっ! わらわはれっきとした刺客なんだからっ」

 きぃっと噛み付く深成に、え、とあきは真砂を見た。
 が、真砂は特に表情を変えることなく、軽く顎で深成を示した。

「まぁ、そういうことだ。何にしても、こんなガキのことは気にするほどのモンでもない。ところで、何の用だ」

 再び真砂に見られ、あきは、あ、と慌てて手に持った盆を差し出した。

「お、お夕餉をお持ちしました。あの、お一人では何かと不便でしょう? よろしければ、わたくしが……」

「いらん」

 あきの言葉に被る勢いで、真砂は、ふいっと顔を背けた。
 あきが固まる。
 深成も驚いて、たたた、と真砂に駆け寄った。

「ちょっと! いくら何でも失礼じゃないの? わざわざご飯持って来てくれた子に対して、感謝の気持ちはないわけっ?」

「……お前はほんとに阿呆だな。もう俺の言ったこと、忘れたのか。さっきあんな目に遭ったくせに、まだ人からの施し物を受ける気か?」

 はた、と深成が真顔になった。
 が、すぐに再び真砂に食って掛かる。

「さっきは、わらわとあんたじゃんっ。思いっきり敵対してるから当たり前でしょ。今は思いっきり味方じゃないか! 何を疑うことがあるわけ?」

「敵とか味方とかは関係ない。自分か他人か、だ。自分自身の手から離れた時点で、信用など出来るものか」
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