夜香花
 ぼんやりと、深成は里の家並みを見た。
 他の家々でも、夕餉の時刻なのだろう。
 ほくほくと、長閑にいろんな家から夕餉の支度の煙が上がっている。

 ああいう家の中では、乱破とはいえ一つの家族が穏やかに暮らしているのだろう。
 少し、深成は羨ましく思った。

「何をやってるんだ、こんなところで」

 いきなり降ってきた低い声に振り向けば、真砂が少し向こうの茂みから歩いてきていた。

「この里の者でもないお前が、無防備にそんなところにいるのは、命取りだな」

 少し乱れた着物を直しながら、真砂が言う。
 何で着物が乱れてるんだろう、と、真砂の現れた茂みのほうに目をやった深成は、そこにあきの姿を見た。

「……ああ……また……」

 最早驚かない。
 あきは急いで着物を着ているが、まだこういうことに慣れていないため、もたもたしている。
 茂みの中で、あれほど着物が乱れるということは、乱れるようなことをしていた、ということだ。

「あんたたちは、ほんとにもう……」

 呟き、深成は立てた膝に顔を埋めた。
 千代といいあきといい、何故ここの女子は、己を好いているわけでもない男と、そういうことが出来るのか。
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