夜香花
 深成を見下ろす真砂の、眉間の皺が一層深くなった。
 そして、次の瞬間には、ばこんと頭を殴られる。

「阿呆。今はお前を調べてるんだ。お前が今城下で起こっている戦に、ちょっとでも関わってるなら、調べていて損はない。なのにお前が死んだら、伝(つて)がなくなるだろうが」

「い、痛いなぁ! だったらもっと、大切に扱ったらどうなのっ! わらわが逃げ出したって、困るわけでしょっ」

「逃げられるもんなら逃げてみろ。そのときは見つけ次第、さっさと殺してやる。そもそもお前は何のためにここにいる。お前の的(まと)はここにあるのに、お前が逃げてどうするんだ」

 とん、と己の胸を叩いて、真砂が言う。
 そして、ぐいっと顔を近づけると、思いきり馬鹿にしたように、至近距離でにやりと口角を上げた。

「逃げるのなら、せめて俺を殺してからにするんだな」

 それはすなわち、未来永劫逃げられないことを意味しているのだろう。
 悔しさに、深成は奥歯を噛みしめて真砂を睨んだ。

「まぁまぁ、とりあえずは仲良くしなされ。ほれ、河原が見えてきた」

 長老が笑いながら、前方を指差す。
 説明されなくても、深成もすでに、ここに来ている。
 もっともそのときは、瀕死で真砂に担がれていたのだが。

「真砂」

 川に近づくと、傍の木立の陰から清五郎が姿を現した。
< 191 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop