夜香花
「まぁ……今は頭領の家にいるから、しょうがないけど。でも細川屋敷とか、それこそじぃさんといたときは、それなりに可愛がられてたんじゃないの?」

 深成はちょっとだけ考え、すぐにふるふると首を振った。

「可愛がられてなんかない。爺だって、そういえば何か、一線を引いてるというか。わらわに対して、遠慮があるというか」

「遠慮? だって、お前のじぃさんだろ?」

「……わかんないんだよね。もしかしたら、わらわは単なる捨て子だったのかも」

 忍びの里では、捨て子を拾って育てることなど珍しいことではない。
 任務故に命を落とす者が多いわりに、里の女から産まれる子供は、極端に少ないからだ。
 さらに忍びの修行は厳しいため、変に情の移る実子でないほうが良いという理由もある。

「でもさ? 深成の党っていうのは、頭領の一族しか『深成』を継げないんだろ? そしたらやっぱり、お前は間違いなく、忍びの頭領の子供なんじゃない? お前のその身体能力は、どう考えても普通の娘のもんじゃないし。どっちかっていうと、その爺ってのが部外者なんじゃないの?」

 え、と深成が顔を上げる。
 考えたこともなかった。

「全然関係ない人が、何でわざわざわらわを育てるのさ」

「さぁ……。細川への間諜として女子の子供が欲しかったから、攫ったのかもよ」

「それはないと思うな。だって爺、父上のこと、よっく知ってるみたいだった」
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