夜香花
「わらわにも、上手く言えないんだけど。う~ん、何て言うんだろう。こういう山の中って、街中よりも特殊じゃん。空気の流れっていうか、そういうのの変化を、身体が覚えてるっていうのかな」

 う~んう~んと唸りながら、深成はもどかしげに説明した。
 捨吉は呆気に取られる。
 要するに、『気を読む』ということだろうか。

 確かに場所によって、空気は違う。
 土地土地の持つ独特の空気が流れているものだ。

 しかしそれは、相当な使い手がその地に入ったときに、僅かに感じることが出来るぐらいのものである。
 しかも感覚の記憶を辿るなどということは、並大抵の能力ではない。

「お前はそういう感覚を頼りに、動くことが可能ってことか」

「んんん……。そういうことになるのかなぁ。何か、そうとしか言えないんだけど、真砂とかは、信じてくれないんだよね。一番初めにね、わらわがあんたたちの里を見つけたのだって、それなんだけど」

「感覚で? どうやって?」

「んとね、真砂の気を追ったっていうのかな。ある程度はね、目星をつけておくんだよ。わらわだって、術者とかじゃないからさ、真砂が去っていくのをずっと見てて、乱破っていうのと、真砂の気と、あとはわらわの記憶っていうか、忍びである者の行動を考えて割り出したっていうか……」

 う~んう~んと、相変わらず考え考え、深成が言う。

「でもさすがに、あっさりとはわかんなかったよ。結構迷った。ほんとはあの戦の後、すぐに行動したんだけど、里を見つけるまでには結構かかったでしょ。わらわのこの感覚ってのは、『なんとなく』だからさ。それに、真砂はあのとき初めて会った人だし。強烈な印象と、強い気だったから、そう簡単に忘れなかったからこそ、里まで辿り着けたんだと思う。あっさり忘れちゃうような人だったら、無理だったかも」
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