夜香花
「警戒心は、ないんだろう。少なくとも、俺とお前に関しては、な」

 引っ付く深成はそのままに、真砂が静かに言った。
 そして、今一度懐剣を眺めると、鞘に納めて脇に置く。

「道中、こいつはどうだった?」

 真砂の問いに、捨吉は少し考えながら口を開く。

「そうですね……。なかなかびっくりするようなことを、よくしてくれましたよ。ま、大したことじゃないですが。ただの娘っ子ではないですね。さっきこの子が言ってたように、今日はずっと走り通しでしたが、平気みたいでしたし。俺より、体力あるかもしれません」

「ほぉ? やはり忍びの者か」

「この子は、そうかもしれません。いえ、術的には、素人の付け焼き刃的なものですよ。この子のおじぃさんってのが、湯浅五助というのは、まず間違いないでしょう」

「何故そう言える?」

「先にお話しした、山で会った男の人も、人より体力があったのだと思います。そうでないと、重傷を負った身で、赤目の里までは辿り着けません。言葉を濁してましたが、あの人は赤目時代の、五助の配下だったのだと思います。でないと、いくら戦から逃れたといっても、忍びの里がそうそう見つかるわけないですし。例え焼け落ちて、忍びがいなくなったとしても、です」

 真砂は顎を撫でた。
 捨吉の考えは、当たりだろう。

 同じ忍びの乱破である真砂たちが、相当捜しても見つからなかったところだ。
 たまたま山に分け入った素人が辿り着けるわけはない。
< 278 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop