夜香花
「真砂は?」

 気づけば深成は、初めに倒れたところから移動している。
 元いたところに流れた血は、綺麗に拭い去られていた。

「頭領は、昼間はどっかに行ってるよ」

 捨吉は小さな器から出した薬を深成の傷に擦り込むと、布でぎゅっと縛った。

「熱も下がったようだし、お腹空いたんじゃないか?」

 一通りの手当てを終えて、捨吉が深成を覗き込んだ。
 言われた途端、くるる、と深成のお腹が鳴る。

「あははっ。わかりやすいなぁ。でもさすがに、ここで食事を作る勇気はないや。作って来てやるから、待ってな」

 笑って立ち上がろうとした捨吉の袖を、深成は慌てて掴んだ。
 が、手を動かすと、肩に激痛が走る。
 深成は小さく呻いて、歯を食いしばった。

「ほらほら。無理したら、治るものも治らないよ」

 捨吉が、ぽんぽんと軽く深成の頭を叩いた。

「わらわ……。そんなに寝てたの?」

「ん? ああ、そうだね。頭領がどんだけ放っておいたかはわからないけど、多分、そんなに長い間は放ってないよ。朝には、俺が見つけてた」
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