夜香花
「だって、何か嫌な予感がするんだもん。怖いっていうか……」

 俯いたまま、ぼそぼそと言う。
 里の者なら、真砂にこのように引っ付くほうが怖いだろうに。

 よくわからん、と思いつつも、真砂は己の中にも感じる澱のようなものを思った。
 調べた深成の正体、最近の城下の様子、忍び込んだ曲者。
 それらを取り巻く状況から、真砂も何か良くないことが起こりそうな感じはしていた。

 同じ空気を、深成も感じているのだろうか。
 不思議な奴だ、と思っていると、里のほうから、捨吉と羽月が走ってくるのが見えた。

「あっ! お前は!!」

 深成を見るなり、羽月は腰の刀に手をかけた。
 だがすぐに、隣の捨吉に押しのけられる。

「頭領! 向こうの藪に、死体が」

 いきり立つ羽月を無視し、報告する捨吉に、真砂が足早に近づいた。
 もちろん真砂も、羽月など見もしない。

「死体?」

「はい。あの曲者が現れた辺りから、城下のほうやその辺りを調べてました。そしたら山の中腹の崖下に、奴と同じような服装の死体が落ちてまして」

 捨吉が説明しながら、真砂を誘導する。
 小走りに進む二人に、深成もついていった。

 羽月が一番後ろを走りながら、深成を睨んでいる。
 ここで真砂とはぐれたら、羽月に殺されそうだと思いながら、深成は必死で真砂の袖を握りしめた。
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