夜香花
「そういえば最近、母上様が来られないけど」

 屋敷のすぐ傍で、野草を摘みながら、深成は呟いた。
 ここのところ連日深成の部屋に通い詰めていた利世が、ここ五日ほど姿を見せない。

 一緒にいた才蔵が、ああ、と軽く頷いた。

「お方様は、何か下界のほうに出かけておられますよ」

「六郎も一緒なの? わらわに付いてるのが才蔵なんて、珍しいじゃん」

 いつもなら、深成付きは、もっぱら六郎だ。
 だが利世は今回、六郎を伴って出かけているらしい。
 六郎の代わりに、ここしばらくは才蔵が深成に仕えている。

「大体六郎も才蔵も、そんなにべったりわらわに付いてなくたっていいのに」

「何を仰せられます。主家の姫君をお守りするのが、我らの使命なれば」

「守るっても、別に何の危険もないじゃん。わらわ、ここに来てから、そんな危ない目に遭ったことないよ」

「それはもちろん、我らがお守りしておるのですから」

「そうでなくて。わらわを襲ったところで、もう何の得もないでしょ。真田のお家には、れっきとした嫡男が産まれたんだし」

 関ヶ原直後の、女子しかいなかった状態ではない。
 昨年利世は、嫡男を産んだのだ。
 今更深成を害したところで、何もならない。
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