夜香花
 真砂は何事もなかったかのように、脱ぎ捨ててあった着物を羽織ると、いつものように壁にもたれかかる。
 そして、深成を見た。

 目が合ってしまい、深成は慌てた。
 見てはならないものを見てしまったところを、さらに見られた、というような、妙な感覚。

---わらわが悪いわけじゃないじゃないかっ。こんな狭い家の中で、すぐ傍にわらわがいるのにあんなことするほうが悪いんだ!---

 心の中で叫び、深成は怪しく視線を彷徨わせた。
 快楽の余韻に浸っていた千代が、再び真砂の投げ出された足に手を伸ばす。

「真砂様……」

 足に抱きつきながら、甘えるように言う千代をそのままに、真砂は真っ直ぐに深成を見る。

「……もう用は済んだだろう」

 足から腰にまとわりつく千代に言う真砂に、千代は少し不満げに口を尖らせた。

「もぅ、つれないですわね。真砂様に抱かれて、そんなさっさと動けるわけないじゃないですか。……腰が抜けてしまいましたわ」

 言いながら、千代は真砂の下腹部に顔を埋める。
 しばらく千代の好きにさせ、真砂は壁にもたれたまま目を閉じる。
 深成は、こそりと目を逸らせ、身体を丸めた。
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