goldscull・不完全な完全犯罪Ⅲ
 「スイマセン……、本当に此処探偵事務所ですよね?」

ソイツはまだ言っていた。

あまりにも狭い探偵事務所でビックリしたのか?
それともビビったのか?

入って来た時よりもっと動揺しているようだった。


こんな所で大丈夫か?
何かヤバそう……

そんなこと考えてる気配がしてた。


それでも俺はソイツが気になる。
何か隠し持っている気がしていた。




 (――本当に挙動不審?

――警察に電話……)

内心では、俺の方がビクついていたのかも知れない。


目の前に凄腕の元刑事が居ると言うのに。


でも俺はソイツがどうしても気になる。
確かに見た顔だった。


(――一体何処で会ったんだ)

俺は情けない位動揺していた。


アルバイトだが、探偵の端くれには違いない。
それなのに、名前さえ出て来ない。


『記憶力が探偵の明暗を左右する』
叔父さんの格言だ。

だから俺も鍛えていたのに……




 世の中にはこんなひ弱そうな奴もいるのか?
そう思いたくなるような物腰だった。


ソイツを良く観察してみたら、何だか取り越し苦労だったようだと気付いた。


(――俺、何を気にしてたんだろう?)

俺は又……
悪いと思いながらスキンヘッドの頭を見つめた。


(――何だろう?

――この不安は何処から来るのだろうか?)

俺は自然とみずほのコンパクトに手を持っていっていた。




 何処にでもいそうな顔立ち。
この頭じゃなけりゃ目立つ存在でもない。

そんな若者が……
と言っても俺も若者の端くれには違いないのだが……

そんな若者が震えて、叔父さんを頼っている。
似つわしくないスキンヘッドの頭を抱えて。


そう、彼はスキンヘッドにピアスだらけの顔。
どっから見ても、強面だったのだ。


だから、さっきまでこっちがビビっていたのだった。


(――でもこの男どっかで……

――確かにどっかで会ったことが……

――でも思い出せない)




 この探偵事務所のことは調べているようだった。

何処から噂を聞いたのだろうか?
叔父さんが元刑事だったことまで知っていた。


(――きっと、叔父さんを良く知っている人に紹介されたんだ)
俺は勝手にそう思い込んでいた。


ソイツはそんな俺に目配せしながら、携帯電話の画像を叔父さんに見せていた。


「この子の浮気現場を押さえてください」
やっとそう言った。
そう……
やっとだった。
ソイツは本来の目的をやっと言えたのだった。


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