光の中のラビリンス[仮]
第1章
貴族の邸が立ち並ぶ一角。





一際大きな邸の屋根の上に、一人の少女が空を見上げていた。




唇に薄い笑みを浮かべながら、少女は夜空に手をのばすと星を掴むような仕草をする。




幼き日、あの空に瞬く星を何度となく掴もうと試みたことがあった。




けれどそれは全て失敗して、呆れる母の表情はよく覚えている。




少しの懐かしさを感じながら、少女は笑みを消すとどこまでも続く闇を見つめ、自虐的な笑みを浮かべた。





やっとこの世ともおさらばだ。




この世に生を受けてから十数年。自分の人生は散々だった。




物のように売買され、虐げられる日々。




身体には無数の痣が残り、醜い以外に何と言えるだろう。




大っ嫌いだ。こんな世界。




“奴隷”なんて地位を作ったこの世界が。




望んでもない奴隷になった自分たちを見下した、人間どもが。




自分が奴らと同じ種族だと思うと吐き気がする。




心底嫌そうに顔を歪めた少女だったが、すぐに満面の笑みを浮かべると空を振り仰いだ。








「――さようなら」






一歩、足を踏み出す。




その先に地面はなく、少女の身体はまっさかさまに落ちていく。



彼女は満足げに微笑むと、静かに瞼を閉じた。












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