ペテン死のオーケストラ
第4章 日記帳

地獄への入口

「元気な女の子ですよ!」

嬉しそうな産婆の声。
一人の女性が泣きながら産まれたばかりの女の子を抱きしめています。

「マルメロ、私のマルメロよ」

女性は泣きながら、産まれたばかりの女の子をマルメロと呼び抱きしめています。

「マートルさん、よく頑張りましたね!危ない所でしたよ。逆子だから辛かったでしょう」

泣いている女性の名前はマートル。

マートルはマルメロを抱きしめ泣くばかりです。

難産だったため、マートルの体力は限界でした。
しかし、マルメロを殺す訳にはいかないと苦しみに打ち勝ったのです。

喜びの涙が止まらないマートルを見て産婆までも、もらい泣きをしてしまいます。

マートルは、可愛らしく元気な泣き声をあげるマルメロに話しかけます。

「はじめまして、マルメロ。貴女のお母さんよ。私の元に産まれてきてくれてありがとう」

マルメロは小さな体ですが、生命力の源のような力を放ち泣いています。

マートルは、そんなマルメロを見つめ言うのです。

「マルメロ、貴女は夢を叶えるのよ」

マルメロは泣き声で返事をします。

祝福の日。

マルメロが、この世に生命を受けた日です。

マートルや産婆は感動の涙を流して喜び合います。

マートルには、父親も母親も兄弟、姉妹、誰も見舞いには来てくれていません。

この出産は、皆の反対を押しきって行われたのです。

マートルは14才、まだ子供なのです。

愛する人と一緒になれるなら、と大胆な行動に出たのです。

しかし、マートルの愛する人の姿も見えません。

不幸の影は着実に、マートルに忍び寄っていたのです。
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