ペテン死のオーケストラ

母の強さ

そんな過去を、静かな病院のベッド上でマートルは思い出していました。

「幸せになりたいの…」

産まれたばかりのマルメロは、本当に小さくて今にも消えてしまいそうです。
弱々しい足と腕、小さな頭のマルメロ。

「もっとこっちに来て」

マートルは産後の容態が思わしくないため、動けずにいました。

遠くにいるマルメロを、ただ見つめる事しかできないのです。

「ジキタリスが来てくれたら、きっと喜んでくれる。だって父親になったのよ。早く来て」

マートルは流れる涙を拭いもせずに、静かにジキタリスを待ち続けました。

「きっと、来てくれる」


しかし、マートルの願いは虚しく散ります。

ジキタリスが病院に来ることはありませんでした。

退院の日、産婆はマートルに言います。

「強いお母さんになるのよ!マルメロを立派に育てて下さいね」

産婆は、マートルに気合いを入れさせます。

「はい。必ずマートルを立派に育てるわ!」

マートルも産婆の期待の言葉に応えます。

小さくも力強いマルメロを抱きしめ、マートルは誓いました。

「夢を叶える子よ。大丈夫、私がずっと一緒にいるからね」

マルメロの顔を見ると勇気がわいてくるのです。

マートルは、ジキタリスの待つ家へと帰っていきました。
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