ペテン死のオーケストラ
サイネリアは渋っていましが、マルメロの必死の説得に少しずつ納得していきました。

「ね!?サイネリア、それにしましょうよ。二人で思いっきりお洒落をして、豪華な一時を過ごすのよ。日常を忘れるには、もってこいじゃない!」

「まぁ、確かにねぇ。そうね、これにしましょうか!分かったわ、返事を出しておくわね」

マルメロは心から喜びました。
マルメロの夢が現実味を帯びてきたからです。

そんな話しで盛り上がっていると、アザレアと子供が帰ってきました。

アザレアはマルメロを見て少し緊張します。
アザレアはマルメロが苦手なのです。

サイネリアは、アザレアに気づき言いました。

「アザレアお帰りなさい。クンシランはどうだった?」

マルメロはサイネリアに聞きました。

「クンシラン?息子の名前?」

「ああ!ごめんなさい。まだ、紹介してなかったわね。この子がクンシランよ」

アザレアに抱っこされている、可愛らしい男の子。
サイネリアはクンシランを抱き抱え、マルメロに見せました。

「直に、一歳になるのよ。ちょっと体が弱くてね。でも、愛嬌のある子よ」

サイネリアはクンシランを抱き抱えながら、嬉しそうに語ります。

「マルメロ、抱っこしてあげて?」

サイネリアはマルメロにクンシランを抱っこするよう奨めました。

「え!?私はいいわよ。落っことしたら大変だもの。赤ちゃんなんて抱いた事ないから!」

マルメロは、クンシランを見て恐がりました。
クンシランは、純粋な瞳でマルメロを見ています。

サイネリアは笑いながら「大丈夫よ」と、マルメロに強引に抱かせました。

マルメロはクンシランを落とさないよう、しっかりと抱きしめました。

暖かくて、柔らかくて、思ったより重たくて、しかも全てをマルメロに委ねているように力が入っていません。

マルメロは緊張しすぎて、声が出ません。

そんなマルメロを見てサイネリアは笑いました。
マルメロは「もう、いいわ。サイネリア、クンシランを抱っこしてあげて」と必死に言います。

すると、クンシランが突然笑い出したのです。

マルメロは驚きました。
クンシランは何が面白いのか分からなかったからです。

サイネリアは驚き言います。

「まぁ!クンシランったら。マルメロの事が大好きなのね!」

マルメロはサイネリアに聞きます。

「笑っているだけよ?そんな事分かるの?」

「分かるわよ。クンシランが誰かに抱っこされて笑うだなんて初めて!マルメロの優しさを感じたのね」

その言葉を聞いたマルメロは、胸が痛くなりました。

「サイネリア、ごめんなさい。早くクンシランを抱っこしてあげて」

サイネリアは、不思議そうな顔です。
マルメロは、クンシランの純粋さに居心地の悪さを感じたのです。

「子供は苦手よ」

マルメロは思いました。
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