キズだらけのぼくらは
すると、新太は本からゆっくりと顔をあげる。
そうして私を見上げた彼は、物静かな低い声でこう言った。
「犯人は知らない方がいいと思うぞ……。キミたちには関係ないことなんだから、首は突っ込むな」
警告でもするかのように私を睨むと、新太は本を閉じてすっくと席を立つ。
それ以上はなにも言わずに、出口へ向かっていく彼。
窓から遠ざかるごとに大きな白いワイシャツの背中は陰り、心なしか揺れているように見える。
「ねえ、私たち関係なくなんかないよ! もう……十分関係してるじゃ……」
ピシャリと、私たちを断ち切るように強く音をたてる引き戸。
さえぎられる結愛の訴え。
けれど、新太は既に戸という境界の向こう側。
戸にはめこまれた窓ガラスからはもう、彼の背中は見えない。
結愛は私に顔をそむけて窓の方を向き、リストバンドがついた左手はやるせなさそうに短いスカートを力強く掴んでいた。
そして手元にある絵の中の偉人たちは、どれもわざとらしくすましているだけだった。