優しい爪先立ちのしかた

シートベルトをした梢が栄生の方を見た。

その視線は梢ではなく、フロントガラスの方を向いていたわけだが。

「私とお兄さん、嶺さんって血が半分しか繋がってないのね?」

どうして急に話そうと思ったのかは分からない。

誰かに、ずっと話したかったのかもしれない。

「はい。それは聞いたことがあります」

「お兄さんのお母さんとお父さんは、高校からの付き合いで、昔の女だった」

いっきに深くなる話に、梢は相槌を打たずに黙った。

「でもお兄さんのことは、お父さんには隠してた。どうしてかって、その時にはもう今の私のお母さんと結婚して、私が産まれるって所だったんだって」

背もたれに背中をつける。

栄生の知っていることは、人から聞いたことだ。

それ以上でも以下にもならない。




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