優しい爪先立ちのしかた
彼女の眼球






重苦しい空気を感じたのは、初めてではない。

例えば葬式の時の空気、そして転職する時の挨拶。

それらとは違う何かを感じてしまうのは、相手が相手だからだろうか。

信号で止まる。車内は沈黙。梢が振った話にも「そうかもね」としか返さない栄生。

「…栄生さん、」

「なに?」

「機嫌が悪いんですか? 気分が悪いんですか?」

「そうかもね」

どういうことだ。

助手席に座りたがっていた栄生は、何故か後部座席へ。
ミラー越しに横顔の表情だけが窺える。

窓の外を見る目はきちんと開いていて、何かみ見ていた。

理由は、多分梢が呉葉の部屋にいたこと。


「…梢、どっかで車停めて」


いつもより少し低いその声に、返事をした。



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