優しい爪先立ちのしかた
私の頸動脈




傷だらけだ。

美人で着飾ることが出来て親友がいても。

こんなに傷だらけなのに、どうして誰も救ってあげられなかったのか。

心は見えないものだからか。彼女が笑っているからか。もしかして、当人も気付いていないからか。

母親の記憶から、無かったものにされること。自分の所為で、好いていた人が目の前で刺されること。

大人でさえ耐えることが出来るだろうか。

夜明け前、梢はそれを考えて眠れずにいた。あと針が半周すれば起きる時間だ。

時折、栄生のことを考えて、それが微笑む顔で、涙が流れた。今すぐ抱きしめに行きたい気持ちになった。

呉葉を許したように、栄生はその恋人も許したのだろう。

許さないと前に進めない、と。



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