優しい爪先立ちのしかた
右の脚を引き摺るようにして歩く彼の速度は脚の長さがあるからか、普段のカナンの速度と殆ど変わらないが。
三年になると、受験の話ばかりだ。栄生との話題も進路の話によくなる。
「けど、別にこの街出たいとか、そんな気持ちはあんまり無いなって」
太陽が落ちた。
しかし、それは落ちたのではなくて、太陽の周りをぐるりと地球が自転しているだけ。何も特別なことなく、明日も同じ太陽が東の空から昇ってくる。
それは、どこに居たって同じ。
比須賀の足音が聞こえなくなって、カナンが斜め後ろを振り返る。
「いつも、羨ましかったよ。深山のこと」
伏し目がちに、紡ぎ出された言葉。
掠れたその声に泣いてしまうのではないかと、ハラハラする。