幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
「ごめんなさいねぇ、大したおかまいも出来なくて」


千景ちゃんのお母さんが三人分のお茶をガラスコップに入れてテーブルの上に持ってきてくれる。


「いえ、こちらこそすみません。都合を合わせて貰っちゃって」


華澄がにこやかに答えた。


「ママ、千景、ジュース飲んでもいい?」


「いいわよ、でも、こぼしちゃだめよ」


「はぁい」


元気な返事と共にピンクのぼんぼんで結ったツインテールを揺らして千景ちゃんは台所へとかけてゆく。


なごやかな会話が似合う屋内には、不穏な気配などかけらもない。


洋風な外観に反して畳の敷かれた客間へと弟と妹共々案内された礼太は、内心びくびくしながら辺りを見渡していたが、別段変わったところはなかった。


「ところで……貴方も奥乃さん所の退魔師さん?」


不思議そうな顔をする奥さんに、急に注意を向けられた礼太は慌てた。


「え、えと、僕は退魔師とかじゃないんですけど、でも、なんか…えっと」


「わたしと聖の兄の礼太です。退魔師ではないですけど、ちょっと事情がありまして、わたしたちと一緒に仕事することになったんです」


要領を得ない礼太を見兼ねてか、華澄が言葉をかっさらう。


ちらりと礼太に冷たい眼差しを投げるのも忘れない。


しっかりしろよ兄貴、と訴えかけてくる。


すみません、と礼太も心の中で謝る。


二人の沈黙のやり取りに気づいてか気づかずか、奥さんは感心したようにうなづいた。


「大変ねぇ、学校もあるでしょうに。兄弟みんなでお仕事だなんて」


「慣れれば大したことはありません」


華澄は朗らかに答えた。


「ところで、今回の依頼の件ですが、この間からどうですか」


「びっくりしたわ、あなたたちに来ていただいてから何も起こらなくなったの。本当に感謝してるわ」


礼太はあれ?と首を傾げた。


下調べはすませてあると確かに言っていたが、もう依頼内容はすませましたの間違いだったのだろうか。


「よかった。では、こないだは一旦沈めただけでしたので、今日は本格的に祓えを行います。よろしいですか?」


どうやら、そういうわけではないらしい。


「ええ、よろしくお願いします。……何かお手伝いできることは?」


「 この間と同じように子供部屋に案内していただければ」


「ええ、分かりました。あの、その間わたしたちは」


「できれば子ども部屋の中には入ってこないでください。害はないとは思いますが、万が一、という場合もありますので」



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