幻桜記妖姫奧乃伝ー花降る里で君と
三人で夕飯を食べ、風呂に入り布団に横になると、疲れがどっと湧いてきた。


どうやら、自分でも知らないうちにかなり張りつめていたらしい。


天井をぼんやり見上げ、長い一日を思い出す。


何も出来ない自分を思い知らされた。


妹と弟に申し訳なかった。


あの小さな子。


あれはなんだったんだろう。


できれば忘れてしまいたい。


現実ではなかったと信じたい。


しかし、腕に残った感覚は生々しくて、風呂でどんなに流そうとも消えてはくれなかった。


そして……慈薇鬼 希皿。


あの冷たくて、深い色の瞳。


血濡れた刃を何のためらいもなく礼太に向けてきた。


ひどく懐かしかった。


しかし、知り得るはずのない少年。


「きさ……ら」


声に出すとしっくり馴染む音。


カチ、カチ、と時計の秒針が大きく響く。


もう、皆寝たんだろうか。


礼太は疲れていたが、目は冴えていて眠れる気がしなかった。


何とはなしに宙に向かって手を伸ばす。


奥乃家に生まれた意味を問う。


次期当主に選ばれた意味を問う。


答えてくれる声などあるはずがなかった。


布団の中に潜り込み、眠気がくるのを待った。


そして、いつしか眠りについていた。







その晩、礼太は夢をみた。
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