あなたと私のカネアイ
「俺がいたから?」
「……そういうわけじゃないです。円さんこそ、私なんかに付き合ってせっかくのお休みが台無しだったんじゃないですか」

 これ以上、自分のことに突っ込まれたくなくて円さんに話を振ったものの、言い方が少しキツくなる。
 こんなの、思い通りに休日が過ごせなかったから八つ当たりしてるだけだ。
 わかってる。わかってるけど、でも、その原因はやっぱり円さんで……
 違う。
 私が最初にしっかりと断りきれなかったのが一番の失敗だったじゃない。次からは絶対についてくるなって言えばいい。
 私の趣味に口出しするなっていう条件は提示してある。円さんだって自分の時間は大切にするて言ってたんだから、頷いてくれるはず。

「円さん、次からは――」
「結愛、そろそろ俺のこと“さん”付けなしで呼ばない?」

 と、私の意気込みをサラッと流した円さんは車を止めて笑顔を私に向けた。

「やっぱり距離があるでしょ? 一応夫婦だし、もう少し近づいてもいいんじゃないかと思って」
「必要ありません」

 きっぱりと断ると、彼は意外にも「そっか」と受け入れた。
 そのままシートベルトをはずして車の外に出た円さんの表情は見えなかったけど、少し声が硬かったのは気のせいだろうか。
 私ははぁっとため息をついて外に出た。
 私に歩み寄ろうとされるのも困るけど、そうやって機嫌を損なったような素振りをされると身勝手だと怒りたいような、同時に可愛げのない私の態度が申し訳なくなるような、複雑な気分になった。
 ああ、もう! 天邪鬼というか、なんというか……こうやってハッキリわからない感情を持て余すから、円さんにも押し切られてしまうんだ。
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