あなたと私のカネアイ
「結愛、俺に触られるのが嫌なの?」
「嫌」
「隣に座るのも嫌?」

 一体何が面白くて、私の夫は自分を愛さないと堂々と宣言した妻に構うんだろう。

「嫌! くっつく必要なんてどこにもないでしょ!」

 私と円はラブラブ新婚夫婦という関係ではないし、私は彼が好きで結婚したわけじゃない。
 そもそも、今はただテレビを見てのんびり食後の時間を過ごしたいだけであって、この会話も正直面倒。
 更に言えば、人に触られるのは好きじゃない。女友達でもベタベタしてくる子は苦手だ。

「うん……まぁ、そうだね」

 円はそう小さく呟いて、私から離れていつもの位置に座った。コーヒーを啜る円の横顔は少し硬い気がして私は膝の上で手を握る。
 ああ、もう。何でこんな風に八つ当たりみたいになっちゃうの。
 何かと私に近づこうとしてくる円にイラついているのは事実だ。でも、こんな風にキツイ言い方をする必要もない。わかっているけど、うまく感情がコントロールできない。
 なんで、私はこんなにムキになっているんだろう?
 でも、この場合、私は悪くない……と思う。だって、私はちゃんと最初に「貴方を愛さない」と宣言した。私の時間を邪魔しないでほしいとも。
 条件を呑んだはずなのに、私の作った距離を縮めてこようとする円の方に非があるじゃない。
 それとも、円の言う「兼ね合い」のために私にも譲歩しろってこと? それこそ、私の求めた結婚とは程遠い。
 視線を下げれば左手の薬指に嵌られた指輪のダイヤモンドが目に入り、更に気分が落ち込む。
 なんだかんだで彼とお揃いの結婚指輪を嵌め続けてる自分も、ハッキリ言ってやったと思えば後からよくわからない罪悪感に苛まれる自分も、面倒で仕方ない。
 ついでにこのタイミングで簡単なサービス問題にまぬけな解答をしたテレビの中のアイドルに腹が立って、今日はもうダメだと悟る。
 こういうときは早く寝るに限る。寝れば、スッキリするから。
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