あなたと私のカネアイ
 お義母さんはやっぱりキッチンで朝御飯の支度をしていた。私に気づくと鼻歌をやめて「結愛ちゃん、おはよう」と笑いかけてくれる。

「お、おはようございます! あのっ! すみません、私、こんな時間まで寝ちゃって……」

 尻すぼみになってしまった言葉に、キョトンとしたお義母さん。
 でも、すぐにクスッと笑って「いいのよ」と優しく声を掛けてくれた。

「結愛ちゃんは昨日もお仕事だったのに、円に連れ回されて疲れたでしょう?」
「いえ、そんな……」
「ご飯ならもうすぐできるから、着替えていらっしゃい。洗面所にあるものは好きに使っていいからね」

 なんて優しい人なんだろう。世の中にはイジワルな姑に苦しめられる嫁はたくさんいるって聞いたのに、円のお義母さんは若くて綺麗で優しくて……悪く言うところなんて全然ない。

「さぁ、早く支度しないと遅刻しちゃうわよ。道が混んでたらいけないから少し早めに出たいって円も言ってたわ」
「すみません」

 もう一度頭を下げて、カーディガンは羽織ったけど足はむき出しのままだったことに気づいてため息が出る。
 お義母さんが用意してくれたものとはいえ、こんな格好で飛び出て「おはようございます」はないな、と更に落ち込んだ。
 とにかく、遅刻はできないし着替えよう。ていうか、私、顔も洗ってないし……そう思って和室に戻ろうとしたとき、お義母さんが「あ!」と声を出す。
 振り返ると、彼女は私に近づいてきて、胸元を指差した。

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