あなたと私のカネアイ

キス(2)

 テーブルの上に広げられた雑誌を何気なく閉じて、横へ避ける。それから「いただきます」と言って箸を持つと、円が「あっ」と声を上げた。
 気付かれた……
 ここのところ、毎日こうして私の目のつくところにこの雑誌を置きっぱなしにしている夫は、じーっと私を見つめて無言の圧力をかけてくる。
 最初はリビングのローテーブルだったのに、無視を続けていたら、ソファの私の定位置やダイニングテーブルに置かれた食事の隣とだんだん主張が激しくなっている。
 さすがに目の前に置かれたら触らなければご飯が食べられない。私は少し遠くに置かれた自分のお茶碗とお椀、それにおかずの載ったお皿を引き寄せて食事を始めた。

「結愛、今のページの花火大会がうちから一番近いんだよ。明後日」
「ふーん」

 適当に返事をして焚きたてのご飯を咀嚼する。お味噌汁はお義母さんの味と同じでおいしい。家庭の味をちゃんと受け継いでるところが円らしいなと思う。

「結愛、明後日だよ。ちゃんと帰ってきてね」
「んー?」

 曖昧に返事をする私に、円はもう一度「明後日だよ」と念を押して自分も食事を始めた。
 最近ますます引き際がうまくなった。私がイライラするラインを早々に見極めたらしい円は、綺麗な箸遣いで自分の作った南瓜の煮付けをおいしそうに頬張っている。
 自然と私の視線は、もぐもぐと動くその口元に引き寄せられた。
 リップクリームとか使ってるのかな?
 綺麗な桃色の唇って女の子に使う表現じゃないかと思うけど、円の唇はそんな感じ。笑う時になだらかな弧を描くと大人っぽいって言うか、艶っぽい。
 ゴクリと飲み込むときの喉の動きなんかは、太い首とそこにある喉仏に男らしさを見せ付けられてる気分になる。

「結愛、そんなに見つめられると食べにくいんだけど」
「……っ!? み、見てない!」

 円に指摘され、慌てて視線を逸らしてお味噌汁を口にした。
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