あなたと私のカネアイ
「結愛さ、一度も俺のブラックカード使ってないよね。お金が理由で結婚したのに、俺のお金には一切手を出してない。じゃあ、今、結愛が俺と一緒に住んでる理由は何? 結婚したからっていう義務? それとも実家にいたくないからっていう単純な理由?」
「なんで……実家?」
「嫌なんでしょ? お金が掛かるって言われるのが。お金に拘ってるのは、結愛じゃなくて、結愛のご両親の方じゃないの?」

 なんで……なんでそんな風に言い切れるの? わかったような言い方しないで。
 お金持ちで優しいご両親に育てられて、自分も事業に成功してお金に困らない生活を続けてきた円になんか、わからない。

「結愛は何も言わないよね。でも……愛で生まれた子供にはお金がかかるって、この前教えてくれた。だから、それが嫌なんだってことはわかる」

 嫌だ。
 愛にはお金が掛かるものだもの。お金がないから、心が狭くなるんだ。稼いだお金が誰のせいで消えていくのかって、責任の押し付けになる。お金さえあれば、文句を言われることなく平穏に過ごせる。
 だから……

「私は――」
「ごめん」

 私の言葉を遮って謝ってきた円。でも、言葉とは裏腹に彼の大きな手は私の両頬を包み込んで……顔を上げさせてくる。

「結愛の嫌がることはしないって言ったけど……でも、結愛は思ったより意地っ張りだから。もう少し、押させて。俺のこと、もっと意識して。俺のこと……好きになって」
「まど――っ」

 そのまま、逃げることなんて許されなくて、円の唇が私のそれに重なる。
 柔らかく押し付けられた唇は、ファーストキスよりも長く私の呼吸を止めた。
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