あなたと私のカネアイ
 それから実家までの道のりでは、円とお母さんが喋って私はずっと黙っていた。
 会いたくない人、行きたくない場所。私にとって苦痛でしかないすぐ先の未来をわかっていて、笑えというほうが難しい。
 ときどきお母さんが振ってくる質問に適当な相槌を打つ度にイライラが募る。それは、実家の玄関をくぐる頃には今にも爆発しそうなほどに膨れ上がっていた。
 リビングではすでに仕事から帰ってきてたお父さんが座ってテレビを見てる。
 円はお父さんに挨拶をして、すぐにキッチンへ入っていった。
 
 ――行っちゃうんだ。

 円はお母さんの手伝いを申し出るつもりなんだと思う。それは別に悪いことでも不自然なことでもないのに、私は置いていかれたみたいな気分になって、肩を落とす。

「ただいま」

 一応声を掛けると、お父さんは「お前も帰ってきたのか」なんて言われ、ますます気分が暗くなった。
 円が一人で来ることがあるとでも思ってるんだろうか。
 お父さんから離れた場所に座って、私もテレビに視線を移したところで、彼がキッチンから出てくる。
 そのまま私の隣に座り、お茶を載せたお盆をテーブルに置き、それぞれの前に置いてくれた。

「お手伝い、断られちゃって」
 
 そう言って笑う円が、キッチンへ戻らないのを見てホッと息をつく。
 出来過ぎる婿をお母さんに独占されることはなさそうだ……

「突然お邪魔してしまってすみません」
「いや……母さんが張り切ってる。ゆっくりしていくといい」

 ――ご飯食べたらさっさと帰るし。
 円とお父さんの会話に心の中で突っ込み、テレビでアイドルが食べている今流行のホットケーキに視線を固定する。おいしそうだな、と無理矢理気分を上げようと試みたがうまくいかない。
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