無花果

姉は次の日もバイトから遅くに帰って来た。

オレは姉が何のバイトをしているか知らない。

バイトが決まると

学校の許可書だけを母に渡して

「お願いします」

とだけ言って頭を下げた。


姉のバイト歴は長い、オレが知っているのは小学校5年生の頃からだ。そのバイトの割りに彼女の部屋には私物が余りないように思えた。

一体、姉は何を買おうとしてるのだろうか?

「お前は一体何をしようとしてるんだ」

廊下から義父の怒鳴り声が聞こえてきた。

「別に」

「そんなにこの家に居たくないのならはっきりと言えば良いじゃないか」

「誰もそんなこと言ってないし」

興奮している義父に対して姉はどこか気だるげな声で反論している。

「お前たちには不自由な暮らしをさせていないと思ってたんだが、高校もお前の実力ならもっと上の高校を狙えたはずなのに、お前は何を考えてるんだ」

「今、私を遠くの高校行かせたら、近所の人にいろいろ言われるのは、お父さんたちじゃないの?ただでさえ、近所の体裁が悪いのに、これ以上悪くしてどうするの?」

「お前ってヤツは」

肌を叩くような乾いた音がした。

オレは慌てて部屋の外に出た。姉は廊下の壁にしゃがみ込んでいた。

10年前の光景と嫌な、デジャヴに襲われてオレは姉の前に立ちふさがった。

「父さん何してんだよ!」

「天耶お前は、黙ってなさい」
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