sweet milk【完】
touch my...

その日、秋雄の部屋のある

アパートに続く砂利道を、

いつものように

手をつないで歩いた。

とてもぬるい風が吹く、

体中から汗が

じんわりと滲み出るような

夕方だった。


秋雄は時々

「暑い」と笑って、

私の親指だけを

指でつまんで

ひらひらと振った。


指一本だけ、離さずつないで。


じゃりじゃり、ごろごろと

足の裏にあたる石の感じを

今でも憶えている。


いや。


その感じは確かに

リアルで確かだけれど

本当に、あの日の私が

感じたものかはよくわからない。

さっきつけた

ライターの感触だって、

昨日のそれとは

区別がつかないくらいだもの。


ましてや秋雄と離れてからは

もう何年経つかもわからない。

その感じ。

足の。

手の。

くちびるの。

汗の。


単なる空想のように遠く

かたちのないもの。

たぶん一生忘れない。

いとしい妄想。

初体験。
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