不器用上司のアメとムチ
「……身体が勝手に動いた」
そんな言い方で逃げると、梅は不満そうに口を尖らせた。
「あたしは心のことを聞いてるんです!」
「ああ……すまん。わかってる」
参ったな……
こういうときは……あれだ。
「これやるから、ちょっと落ち着け」
ズボンのポケットから取り出したのは、小さな飴ふたつ。
しかし……
「……溶けてるんですけど」
ねじれた包装紙を横に引っ張っても開かないらしく、梅が俺を睨む。
そういや、いつ入れといたやつだか怪しいな……
どうして俺は霞のように、なんでもスマートに決まらないんだ。
自分のカッコ悪さにため息が出る。
「どうせディナークルーズの当てもないんでしょう?」
梅は呆れたようにそう言って、溶けた飴を俺に返した。
俺はそれを受け取りポケットに戻すと、にやりと微笑んで言った。
「……それは違うぞ。ちゃんと船に乗せてやる。こっちだ……着いてこい」