不器用上司のアメとムチ
どこか焦ったような柏木さんが、石原と呼ばれていた人から奪うように鍵を受けとると、こちらに近づいてきた。
「邪魔」
「あ、ご、ごめんなさい!」
扉の前から慌てて移動し、柏木さんの背中を見送る。
すると、あたしの手の中がふっと軽くなった。
「ごめんね、柏木さんに悪気はないんだ」
あたしの持っていた荷物を手にそう言ったのは石原さん。
ふわふわとした色素の薄い髪に、女の子のように白い肌。
瞳は綺麗なグレーで、あたしは一瞬その日本人離れした彼の容姿に見とれた。
ハーフ……?
それにしても、この部署、イケメン多すぎ……
「でも、あの柏木さんがここまで焦るなんてね。愛の力ってすごいや」
「……愛の力?」
「産まれそうなんだって、赤ちゃん。ついさっき病院から連絡あって、だからあんなに急いでたんだ」
……あの、無愛想な柏木さんが。
赤ちゃんのためにあんなに?
あたしは驚いて目をしばたかせた。