不器用上司のアメとムチ
痛い……
死んだはずなのにどうして痛みを感じるんだろ……
「――姫原さん!!姫原さん!!」
誰かが呼んでる……
森永さんの声……?
あたしはゆっくりと、まぶたを押し上げた。
「姫原さん……!!よかった……」
「あの……あたし、死んだんじゃ……」
「馬鹿なこと言わないで!!ちゃんと生きてるわよ……」
森永さんは涙を流しながら、あたしの手を握る。
そっか……助かったんだ、あたし。
でもあの状況でどうやって……?
「もうすぐ、救急車が来るからね?」
「……救急車?いや、あたしそんなの呼んでもらうほどの怪我は……」
言いながら上半身を起こすと、あたしは辺りを見回した。
交差点には、トラックがブレーキを踏んだ跡が生々しく弧を描いていて、ぞくりと寒気が走る。
その光景から逃れるように歩道に目を向けると、少し離れた場所に倒れている人の姿が。
「聞こえますかー!大丈夫ですかー!!」
通行人らしき男性が、その人の傍らにしゃがんで大声を出している。
あれは……意識のない人に施す応急処置……だよね。
そっか、救急車はあの人のために……
そう思い付くのと同時に、心臓がドクンといやな音を立てた。
あれは……だれ?