不器用上司のアメとムチ

痛い……

死んだはずなのにどうして痛みを感じるんだろ……



「――姫原さん!!姫原さん!!」



誰かが呼んでる……

森永さんの声……?

あたしはゆっくりと、まぶたを押し上げた。


「姫原さん……!!よかった……」

「あの……あたし、死んだんじゃ……」

「馬鹿なこと言わないで!!ちゃんと生きてるわよ……」


森永さんは涙を流しながら、あたしの手を握る。

そっか……助かったんだ、あたし。

でもあの状況でどうやって……?


「もうすぐ、救急車が来るからね?」

「……救急車?いや、あたしそんなの呼んでもらうほどの怪我は……」


言いながら上半身を起こすと、あたしは辺りを見回した。

交差点には、トラックがブレーキを踏んだ跡が生々しく弧を描いていて、ぞくりと寒気が走る。

その光景から逃れるように歩道に目を向けると、少し離れた場所に倒れている人の姿が。



「聞こえますかー!大丈夫ですかー!!」



通行人らしき男性が、その人の傍らにしゃがんで大声を出している。


あれは……意識のない人に施す応急処置……だよね。

そっか、救急車はあの人のために……


そう思い付くのと同時に、心臓がドクンといやな音を立てた。

あれは……だれ?

< 175 / 249 >

この作品をシェア

pagetop