不器用上司のアメとムチ
「あ、あたしは姫原小梅って言います…!」
名前を名乗って、ぺこりと頭を頭を下げてから気がついた。
このそっくりさんは久我さんの双子の兄で。
渚さんは彼の奥さん。
じゃあどうして、久我さんは渚さんの写真なんか持ち歩いていたんだろう……
「ねーえ、はやくいこうよ!!」
男の子……光くんが、渚さんの服の袖を引っ張る。
「そうね、はやく顔を見て帰りましょう。姫原さんと猛の邪魔になっちゃうし」
「……そうだな」
あたしの胸のもやもやなんて知る訳もなく、久我家の三人は扉をノックして病室に入っていってしまった。
もしも、久我さんが渚さんを見ていつもと違う顔をしたらどうしよう……
それを思うと怖くて足が動かなかった。
そんなあたしを呼びに病室から出てきたのは、小さな久我さん……光くん。
「おひめさま、みんなが呼んでるよ?」
無邪気に微笑んで、彼があたしの手を取る。
「わ、ちょっと待って!」
まだ心の準備が……!