不器用上司のアメとムチ
吉沢さんと並んで会社を出ると、外はまだ明るく暑さも健在で、冷房に慣れていた身体が一気に汗を吹き出す。
「車、なかなか冷えないかもしれないけどごめんね」
「いえ……あの、それで行き先って……」
吉沢さんはそれには答えず、ただただあたしにキラキラ眩しい笑顔を向けてくるだけだった。
ぜ、絶対何か企んでるこの人……
会社から五分くらい歩いた場所にある社員専用の駐車場に着くと、吉沢さんがキーをかざした先の黒いステーションワゴンのライトが光って鍵の開く音がした。
「ごちゃごちゃして汚いけど、まぁ乗って」
「……はい。お邪魔します」
あたしの乗った助手席は綺麗だったけど、チャイルドシートの二つついた後ろの座席は、ぬいぐるみや絵本が散乱していた。
確かにごちゃごちゃしてるけど、なんだかあたたかみがあって可愛い。
……吉沢さん、パパなんだなぁ。