不器用上司のアメとムチ

吉沢さんと並んで会社を出ると、外はまだ明るく暑さも健在で、冷房に慣れていた身体が一気に汗を吹き出す。


「車、なかなか冷えないかもしれないけどごめんね」

「いえ……あの、それで行き先って……」


吉沢さんはそれには答えず、ただただあたしにキラキラ眩しい笑顔を向けてくるだけだった。

ぜ、絶対何か企んでるこの人……


会社から五分くらい歩いた場所にある社員専用の駐車場に着くと、吉沢さんがキーをかざした先の黒いステーションワゴンのライトが光って鍵の開く音がした。


「ごちゃごちゃして汚いけど、まぁ乗って」

「……はい。お邪魔します」


あたしの乗った助手席は綺麗だったけど、チャイルドシートの二つついた後ろの座席は、ぬいぐるみや絵本が散乱していた。

確かにごちゃごちゃしてるけど、なんだかあたたかみがあって可愛い。

……吉沢さん、パパなんだなぁ。

< 67 / 249 >

この作品をシェア

pagetop