メゾン・ド・フォーチュン

新しい住人

RRRRR…

携帯の音ではっと我に帰る。

やだ、あたしったら、こんな忙しい時に

何で、高校生の時のことなんて思い出してるんだろう?

苦笑しながら、

通信のボタンを押す。


「もしもし?

 はい立夏です。

 ママ?

 ええ、大丈夫よ。

 私だって、人の子の親ですもの、ちゃんとやってるわ。

 夕?うん元気よ、

 判ったそのうち遊びに行かせるし。

 そんなこと言わないで、

 済んだことなんだから」


母からの電話だった。

度々かかってくる、

娘の私の心配より、

多分、孫の夕(ゆう)のことが気になって仕方ないらしい。


「そんなの無理だって、

 だから、もう4月から小学生だし。」


「ママ、なんか大きなトラック来てるんだけど。」


「ああ、ごめん引越し屋さん来ちゃったみたいだから切るね。」


一流商社に務める主人とお見合い結婚。


結婚したときは玉の輿なんて言われたけれど、

最愛の夫は、食品の買い付けに行ったロシアで

行方不明になったままもう3年も帰ってこない。


会社の方も、しばらくは、動向を見守っていてくれたけれど、

文書で家族援助打ち切り通告を受けた。

少しの退職金が振り込まれたことで、縁を切られた形となった。


ここ2年は実家の持っていた持ち家で、

親子二人暮らしていたのだけど、

先月父の会社が倒産になり、

家を明け渡さなくてはならなくなった。

泣きっ面に蜂とはこのことだ。


しかし、拾う神もある。



主人の遠縁に当たる方の不動産会社に雇ってもらえることになった。

その会社で管理しているアパートの一室に住まいに、

管理人として住み込みで働いているという形にしてもらって。




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